私はこれまで約20年間、街のスーパーで青果部門のバイヤー兼担当者として働いてきました。早朝の市場での仕入れに始まり、産地の生産者さんとの会話、毎日の売り場づくり、そして何より、
「これって本当に美味しいの?」
「どれを選んだらいいの?」
というお客様からの数えきれないほどの質問に答えてきた20年です。
野菜や果物を毎日触り、断面を見て、香りを嗅ぎ、味見をする。そんな日常を20年続けていると、本では決して学べない「青果の本物の見分け方」が体に染みついてきます。このブログでは、そんな私の現場経験をもとに、皆さんが日々のお買い物で「もう失敗しない」ための知識をお伝えしていきたいと思っています。
1年間の旬の野菜と果物
スーパーに行くと、季節を問わずに同じ野菜が並んでいます。トマトもきゅうりもキャベツも、365日いつでも買える。便利な時代になった反面、
「今、本当に美味しいものはどれなのか」
が見えにくくなっているのも事実です。20年売り場に立ってきた立場で断言できますが、同じ野菜・果物でも旬の時期と旬を外した時期では、味も栄養も価格も、まるで別物と言っていいほど違います。旬のものは甘く、香りが豊かで、しかも安い。
それでは月ごとに、その時期の主役となる野菜と果物、そしてプロの目線での選び方を順番にご紹介していきます。

1月。一年で最も野菜が甘くなる季節です。寒さで凍らないように野菜が糖分を蓄えるため、ほうれん草・小松菜・春菊といった葉物野菜は糖度が一気に上がります。ほうれん草を選ぶときは、葉の緑色が濃く、根元の赤みが強いものを手に取ってください。プロの目で見ると、根元の赤色が冬ほうれん草の証であり、ここに最も栄養と甘みが詰まっています。果物では温州みかんと早生りんごがピーク。みかんは皮の色だけで判断せず、ヘタの切り口が小さく、表面の油胞(つぶつぶ)がはっきり見えるものを選んでください。私の経験上、ヘタが大きいみかんは木の上で大きく育ちすぎて味が薄い傾向があります。
2月。葉物野菜が一年で最も甘くなり、白菜・大根・キャベツも甘みが乗って鍋料理に最適なシーズンです。白菜は持ってずっしりと重く、葉先がほんのり黄色っぽいものが完熟。大根は表面がツルツルで、ヒゲ根がまっすぐ縦一列に並んでいるものが良い大根です。ヒゲ根が螺旋状に曲がっているものは、土の中でストレスを受けて辛みが強くなっている場合があります。果物ではいちごの最盛期。あまおう・とちおとめ・紅ほっぺなど品種が出そろう時期です。いちごはヘタが反り返って濃い緑色のもの、表面のツブツブ(本当はあれが種です)が立っているものが新鮮な証拠です。色だけで選ぶと、表面だけ赤くて中は酸っぱいというハズレを引くことがあります。
3月。冬野菜が終わり、春野菜が顔を出し始める切り替えの月。新玉ねぎ、菜の花、ふきのとう、たけのこ、うど。新玉ねぎはみずみずしく、触ったときに柔らかすぎず、それでいてカチカチでもないものが食べごろです。スーパーでよく見かける「外側の皮が茶色く変色している新玉ねぎ」は、収穫から日が経って水分が抜けかけているサインなので避けたほうが無難です。たけのこは穂先が黄色っぽく閉じていて、根元の切り口が白くみずみずしいものが新鮮。穂先が緑色になっているものは、土から頭を出してしまった「えぐみの強いたけのこ」なので避けてください。

4月。春野菜の本格シーズンです。新玉ねぎ・新じゃが・春キャベツ・アスパラガス・スナップエンドウ・絹さや・グリンピース。みずみずしさが命の野菜が並びます。春キャベツは冬キャベツと違って、ふんわりと巻きが緩く、葉が柔らかいのが特徴。プロは「持ったときに軽い春キャベツ」を選びます。冬キャベツとは正反対の選び方で、春キャベツの場合はぎっしり詰まっていると葉が硬くなり、本来の良さが出ません。アスパラガスは穂先がしっかり閉じていて、根元の切り口がみずみずしく、太さが上から下まで均一なものを選ぶと食感の良いものに当たります。
5月。新じゃがいも、そら豆、いちごの終盤、メロンの始まり。新じゃがは皮がペラペラと薄く、軽くこするだけで剥けるのが本物。皮がしっかり固いものは新じゃがではなく長期保存品です。そら豆はサヤが鮮やかな緑色で、サヤの背中の筋が黒くなっていないものを選びましょう。サヤを開けたとき、中の豆がふっくらと隙間なく並んでいるものが美味しいそら豆です。
6月。さくらんぼ、メロン、桃の早出しが始まり、野菜ではトマト・なす・きゅうり・ピーマン・とうもろこしと夏野菜のオンパレードに突入します。トマトを選ぶときに私が必ず見るのは、ヘタの裏側の「星マーク」です。ヘタの裏に放射状の白い線(維管束)がはっきり見えるトマトは、糖度が高く美味しい証拠。色が均一に赤く、ずっしりと重いものを手に取ってください。さくらんぼは佐藤錦の出始めの時期です。粒が大きく、軸が緑色でピンと張っているものが新鮮。軸が茶色く乾いているものは収穫から時間が経っている可能性が高いです。

7月。スイカ、桃、シャインマスカット(早生)、とうもろこし、枝豆。とうもろこしは収穫から時間が経つほど劇的に甘みが落ちるため、皮付きで朝採れと表示されているものを選んでください。市場で私が見ているポイントは、ヒゲの色と量です。ヒゲが濃い茶色でフサフサしているものは、実がぎっしり詰まっている証拠。ヒゲが少なかったり白っぽいものは、実がスカスカのことがあります。スイカは「叩いた音」で判別するとよく言われますが、プロは「ツルの根元(花落ち部分)のくぼみ具合」と「縞模様のメリハリ」を見ます。ツルの周りが少しくぼんでいて、縞模様がくっきり鮮やかなものが完熟スイカです。
8月。桃、梨(幸水)、ぶどう、すいか、なす、トマトの最盛期。桃は産毛がしっかり残っていて、香りが立っているものが完熟直前のサイン。色が全体的にピンクに染まっていても、鼻を近づけて香りがしないものはまだ硬い段階です。プロは桃の「お尻」を見ます。お尻側がクリーム色からほんのり赤みが差していると、ちょうど食べごろです。なすは皮にツヤがあり、ヘタのトゲが鋭く触ると痛いくらいのものが新鮮。ヘタが乾いていたり、トゲが丸くなっているものは収穫から日が経っています。
9月。梨(豊水・新高)、ぶどう、いちじく、さつまいも、新米の季節。梨は表面の点々(果点)がくっきり見えるもの、お尻側がふっくらと丸く膨らんでいるものが甘い梨です。さつまいもは収穫直後よりも1〜2ヶ月寝かせたほうが甘くなるため、9月は出始めですが本格的なピークは10〜11月。表面に黒い斑点(クロセンと呼ばれます)があるさつまいもを病気と誤解されがちですが、これは糖度が高い証拠で、むしろ甘いさつまいもです。避けずにぜひ選んでください。

10月。りんご、柿、さつまいも、ぶどう(終盤)、栗、きのこ類が主役の月。りんごは持ってずっしりと重く、お尻側(花落ち部分)がへこんでいるものが完熟しています。表面に蝋(ろう)のようなテカテカが浮いていることがありますが、これは果粉と呼ばれる天然のロウ物質で、りんご自身が乾燥から身を守るために分泌しているもの。プロはこの果粉が多いほど鮮度が高いと判断します。柿は色が均一に濃いオレンジで、ヘタが緑色のままピッタリと張り付いているものを選んでください。
11月。冬野菜が再び主役へ。白菜・大根・かぶ・里芋・れんこん・ごぼう。果物ではみかんが本格化し、洋梨(ラ・フランス)も登場します。みかんは大きいものより、小ぶりで皮が薄く、手に取ったときに同じ大きさのものより軽く感じるくらいのものが甘いことが多いです。大きすぎるみかんは水分が多くて味が薄い傾向にあります。これは20年売り場で何千ケースとみかんを扱ってきた中で、何度も検証した私の結論です。
12月。一年で最も売り場が忙しくなる年末商戦。みかん・りんご・大根・白菜・れんこん・ごぼう・ほうれん草・春菊。鍋やおせちの食材が一気に動きます。れんこんは穴の中が黒ずんでいないもの、表面が乳白色で傷の少ないものを選んでください。切り口が変色している場合は時間が経っている証拠です。ごぼうは見た目が悪くても土付きのほうが断然日持ちしますし、香りも強い。洗いごぼうは便利ですが、香りが半減してしまうのが青果のプロとしてはちょっと残念なところです。
ここまで月ごとに見てきましたが、最後にもう一つだけ、20年の経験からお伝えしたい大切なことがあります。野菜と果物の旬を知ることは、単に「美味しいものを食べる」以上の意味があります。旬のものは栄養価が高く、価格も安く、環境への負荷も少ない。家計にも体にも地球にも優しい選択なのです。
スーパーに行く前に、ほんの少しだけ「今の季節の主役は何だろう」と思い出してみてください。それだけで毎日の食卓は確実に豊かになります。そして、もしも売り場で迷ったら、この記事を思い出して、私がお伝えした「プロの目線」をひとつだけでも実践してみてください。きっと、これまでと違う美味しさに出会えるはずです。
これから少しずつ、品目ごとの選び方や保存の仕方、本当に美味しい食材宅配の見分け方など、青果のプロとして20年現場で培ってきた知識をお届けしていきます。日々の食卓がほんの少しでも豊かになるよう、お役に立てれば嬉しいです。